ESPヴァイオリン製作科の1年生が、ヴァイオリニスト土屋雄作のためのオートクチュール・ヴァイオリンを作るプロジェクトが始動して早2か月。久々に工房を訪れると、その日は土屋も顔を見せていた。「今日は実際に土屋さんに楽器を構えてもらって、演奏しやすさに大きく影響する、ネックの微調整をしようと思っているんです」と学生。その言葉に「自分の体に合わせた楽器を作ってもらえるなんてニヤケちゃいますね」と土屋。さっそく楽器を手にとり、ネックの感触を念入りに確かめていく。「ここはもう少し細くできますか?」「ここは丸い方が弾きやすいかな」といった具体的なオーダーに対し、その場ですぐに微調整。ほんの少し削っただけで全体のバランスが大きく変化するため、緊張感あるやり取りはのべ1時間に及んだ。そしていよいよ最終作業となる、塗装へ――。こうして誕生した、世界に一つのヴァイオリン。土屋は来る9月20日、自身のライブでこの楽器のお披露目をするという。学生たちの緊張と期待が最高潮に達する瞬間。次回はそのライブの模様をお届けしたい。
工房を訪れた土屋とともに記念撮影。完成まであと一歩! 学生たちは「どんな音色も表現できる、自由度の高い楽器にしたい」と夢をふくらませる
前回は楽器の側板づくりとスクロールを彫るところまで完了
1.裏板・表板作り
厚みのある板をノミやカンナでくり抜いて、面がアーチ状になるように削り、縁の厚みは約4ミリに整える。表板ではf字孔を切り取る
2.パフリング
裏板・表板の縁にぐるりと一周、溝を掘り、黒い合板をはめ込む。パフリングはデザインのアクセントになるほか、外からの衝撃を食い止める役割も
3.ネック調整
奏者の手にフィットするネックになるよう、刃物や鉄工やすりで調整を行う
4.塗装
いよいよ最終作業の塗装へ。今回は艶感のある赤茶を目指して「レッドブロン:茶=3:1」をハケで塗っていく
みんなが僕のことをどんな風に捉えて、
どんな楽器をつくってくれるのか、とても楽しみです
依頼者・土屋雄作
インストゥルメンタル・バンド「シベリアン・ニュースペーパー」のヴァイオリニスト。イギリス・マンチェスターの音楽コンベンションや、2007年フジロックフェスティバル、2009年マウントフジミュージックフェスティバルなどに出演。近年では弦楽カルテットや民族楽器を加えたユニットも主催し、ソロ活動も行う。
●シベリアン・ニュースペーパー オフィシャルサイト
http://www.siberian-newspaper.com/